2015年8月2日日曜日

知らない人に声をかける

ゆったりと時間が流れるカフェの空間を楽しみながら、

ふと、隣で本を読んでいる女性に声をかける

ひとつであるはずの彼女は、

驚きと不安を瞳に浮かべて目を反らす


絶妙な朱と紺が混じり合う夕暮れの中、

ふと、真っ直ぐに歩く男性に声をかける

ひとつであるはずの彼は、

鬱陶しさと不信を口の端にのせて、立ち去っていく


透き通った大空の下で、頬をなでる風を心地よく感じながら、

ふと、公園で遊ぶ親子に声をかける

ひとつであるはずの母は、

警戒と拒絶を後ろ姿で語って、子供の手をひく


ひとつしかないところから

出会えなくて

出会いたくて


出会えないから

出会おうとして


意志ひとつでつくり続けた路は

ふと、振り返ってみると、137億年経ったように見えて、

心に重く降りかかり、路が見えない


けれど、心の深い深い、一番奥深いところからかすかな声がする


ここだよ

今ここだよ


かき消されそうなその声に必死で耳をすます


ここだよ

今ここだよ


深い深い、一番奥深いところ、

上からではどんなに手を伸ばしても届かない、だから


深い深い、一番奥深いところよりも

さらに低い低いところから、声をかける


出会いにきたよ

今ここに


一番低いところから路を貫いて届けと、全身を声にして叫ぶ


出会いにきたよ

今ここに、今ここで


ひとつしかないことを知るために

今日も、知らない人に声をかける




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